−本名カズト ニューアルバム『HIMAWARI』によせて−
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「この日を こんな夜を ずっと待っていたんだ…」
名曲『Beat of highway』の冒頭の歌詞である。今の気持ちを、こんなに言い当てている言葉は他にない。
本名カズト、待望のニューアルバム『HIMAWARI』がついに発売された。
本名さんとの出会いは約2年前。ある大規模なイベントライヴで知り合ったのだが、当時100組を超えるミュージシャ
ン、シンガーソングライターが参加していた中で、本名さんの音楽は断トツのカッコ良さを誇っていた。少なくとも俺の
中では。いや、ルーツ・ミュージックを心から愛し、多大な恩恵を授かった人たちは皆、同じ思いだったに違いない。
それからというもの、すっかりファンになり、ライヴにも毎回のように通い続け、内緒でMDに録音し、自分だけのライヴ
ベスト盤を作ったりするくらいハマっていったのであるが、改めて本名さんの音楽の魅力を考えてみると、
ルーツ・ミュージック全般に根ざした芳醇なメロディーと、まるで映画を観ているかのように情景が浮び、時代を
選ばないシンプルな歌詞。それが一体となっているところだと思う。そこにあの個性的な声が加わり、聴き手の心に
響くのである。
さらにバンドとして本名さんの音楽を最大限に盛り立ててきた「 The Swamp」。彼らは俺にとっての身近なザ・バンド
であり、ローリング・ストーンズであり、クレイジーホースであった。今はもう残念ながら解散してしまったのであるが、
あの白熱のライヴを知る一ファンとしては、ぜひまたいつの日か一緒にやってもらいたいと願っている。
さて、今回のアルバムに収録されているのは6曲。いずれもライヴで人気の高い名曲たちが選ばれている。
ここで簡単に1曲ごとの解説を加えていくことにしよう。
ある夏の一日を描いた、ストーリーテラーとしての魅力にあふれたナンバー。
いつかまた会えることを信じて最後の夜を過ごす二人。
月に照らされ、蒼い影を落とし一面に広がるひまわりが、鮮やかに描き出されより一層切なさを誘う。
この二人はもしかしたら、もう二度と会えないことを解っていたのかもしれない…。
まるで短編のロード・ムーヴィーを観ているかのようなライヴでも人気のナンバー。
今よりも自由を求めて、夜更けから朝焼けのハイウェイをどこまでも走る二人。
Swampの演奏は、後半に向けより疾走感を増してゆく。
「二人の明日と夢を繋ぐ アクセルを踏んで」という歌詞に、ふとポール・オースターの小説「偶然の音楽」の
ラストシーンを思い出した。
数々の曲の中でも特に人気が高い、珠玉の名バラード。
鮮やかな情景・心象描写が感動のメロディーと共に聴き手の心を打つ。実はこの曲、本人にしては珍しく
似たような体験を元に書き上げた、と公表している。
電話越しのシーンということで、トム・ウェイツの名曲「マーサ」を思い出した。
この2曲に共通するのは、どちらも時代を越え親しまれるであろう名曲に違いない、ということである。
誰もが優しい気持ちになれる心温まるナンバーだが、時を経て複雑な想いを綴ったおとなの曲である。
そしてこの曲をより完成度の高いものにしてるのは、メンバー全員による簡素ながらもムダな音が一つもない、
よく練られたアレンジによるところが大きい。
何とも言えない切ない余韻がいつまでも続いていく。
夢に飢えた旅人の歌。ここで言う旅人というのは比喩だが、言葉一つ一つに実に様々な啓示が含まれている。
ガマンを忘れた現代人に対する警告とも言えるかもしれない。
かのクレイジーホースを思わせる、荒々しくもタイトなSwampの演奏と本名さんの渾身のハープが、砂漠の上に光る
星に向かって、必死に吠えているようだ。
アルバムを締めくくるラヴソング。終始つぶやくように歌っているところに、君に会いたくてたまらないという気持ちが
痛いほど現れている。
この曲の聴き所として、本名さんの息使いまで読み取り、ピンポイントで正確に合せている「ミック」こと田中さんの
スライドギターが挙げられるだろう。
ライヴでもラストに演奏されることが多く、本人にとっても特に思い入れのある曲なのかもしれない。
ここまで見てきて、誤解を恐れずにもう一つ付け加えるならば、本名さんは何か革新的なことをやっていたり、斬新な
ことをやっているわけではない。ただ、荒野の片隅でずっと昔から咲き続けてきた、ルーツ・ミュージックという花がい
つまでも枯れないように、その庭に絶えず水を撒き続けているだけなのである。次世代まで確実にその美しさを橋渡
しすることを、自らの恩返しであり、また使命でもあると信じながら。
そしてこの点、この姿勢が本名さんの最大の魅力であり、俺が共感し真の意味でリスペクトしているところでもある。
最後に、もし本名さんに興味を持ってアルバムを買い、その音楽に心を打たれた人は、次はぜひライヴの方へ足を運
んで欲しい。アルバムの収録曲は、まだほんの一部にすぎない。100を超えるレパートリーの中には、まだたくさん
のキレイな花が咲き誇っている。いつの日にかもう一度、あの街路に還る時を夢見て…。
P.S. かつてロック界にはこんな言葉がはびこっていた。
「30以上の大人は信用するな!」
今、俺ははっきりと言える。この言葉を信用しないと。
野 田 徹 2003.8
本名カズトさん公式HP:http://www.yataiki.net/hkswamp/
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